私がスヴァールバル諸島に移住したのは、2019年の春。
北極での生活は、それまで経験したどの場所とも違うものでした。
徒歩で暮らせる町のコンパクトさや、日常のすぐそばに広がる北極の自然。
暮らして初めてわかった魅力がある一方、買い物の選択肢の少なさや、町の外へ自由に出かけられない不便さもあります。
この記事では、移住生活5年目を迎えた2023年当時に感じていた、スヴァールバル暮らしのメリットとデメリットを実体験を交えて紹介します。
スヴァールバルの場所や町、観光の基本は、別記事「スヴァールバル諸島はどんな場所?」で紹介しています。
スヴァールバルで暮らして感じたメリット
実際に暮らしてみると、町の小ささや英語の通じやすさ、自然との距離の近さなど、スヴァールバルならではの暮らしやすさも見えてきました。
ここでは、移住5年目に感じていたメリットを紹介します。
徒歩で暮らせるコンパクトな町

スヴァールバルの中心地・ロングイェールビーンでは、中心部の主な生活圏は約3kmの範囲に収まっており、端から端までゆっくり歩いても1時間ほどです。
自然に囲まれた小さな町というと、生活には車が欠かせないイメージがあるかもしれません。
ところが、ロングイェールビーンでは、スーパーやカフェ、レストラン、学校、病院、郵便局、図書館など、生活に必要な施設の多くが中心部に集まっています。
町には住民が日常的に利用できる路線バスがなく、公共交通はタクシーと空港シャトルバスが中心です。
私自身も移住してからほとんど徒歩で生活しており、車がなくても普段の生活で困ることはあまりありません。
日常生活で治安に不安を感じることが少ない
移住してから、町の中で犯罪を意識する場面はほとんどなく、安心して暮らせています。
スリや置き引き、強盗などのトラブルを耳にする機会も少なく、家や車に鍵をかけない住民も多いです。
我が家もそのひとつ。普段は玄関に鍵をかけておらず、実は自宅の鍵がどこにあるのかも知りません。
落とし物が持ち主のもとへ戻るのも、この町ではよくある光景。
こうした安心感には、住民同士の距離感も関係しているように思います。
スヴァールバルは住民の入れ替わりが多く、田舎特有の濃い近所付き合いはあまりありません。
その一方で、厳しい環境で暮らしているからこそ、困ったときには自然に助け合う雰囲気があります。
必要以上に干渉しないけれど、いざというときには支え合う。
そんなほどよい距離感も、私が安心して暮らせている理由のひとつです。
英語で暮らせる国際的な環境
スヴァールバル諸島はノルウェー領ですが、ノルウェー語が話せなくても、英語で日常生活が送れます。
ロングイェールビーンは、住民の約4割がノルウェー国外の出身者という国際的な町。
スーパーやレストラン、公共施設などでも、ノルウェー語と英語の両方が自然に使われています。
私自身も、移住した当初はほとんどノルウェー語を話せませんでしたが、日常生活で困ることはありませんでした。
ただし、現地で仕事を探す場合は、職種によってノルウェー語が求められたり、話せる人が優先されたりすることもあります。
日本にいた頃のような花粉症に悩まされない

日本にいた頃は、毎年春になると軽い花粉症に悩まされていました。
ところが、スヴァールバルに移住してからは、一度も症状が出ることなく、5年目を迎えています。
その背景にあると感じるのが、スヴァールバルの厳しい自然環境です。
寒さが厳しく、植物が育つ夏も短いため、ここには森林がありません。
見渡しても、私たちが一般に思い浮かべるような木は一本もなく、日本で花粉症の原因になりやすいスギやヒノキも育たない土地です。
短い夏にはツンドラの植物が花を咲かせますが、少なくとも私の場合、日本にいた頃のような花粉シーズンを感じずに過ごせています。
鼻や目のかゆみを気にせず外へ出られることは、暮らしてみて気づいた意外な快適さです。
ノルウェー本土より低い税率
北欧といえば税金が高いイメージがありますが、スヴァールバルにはノルウェー本土とは異なる税制度が適用されています。
特に違いが大きいのが、給与にかかる税金と付加価値税(VAT)です。
- 給与所得税:年収約164万NOK(約2,700万円)まで8%
- 約164万NOKを超えた部分:22%
- 社会保険料:7.6%
(ノルウェーの国民保険に加入している場合) - VAT:なし(ノルウェーのVAT対象地域外)
※正確な基準額は1,638,588 NOKです。この金額はノルウェーの国民保険基礎額に連動し、毎年改定されます。
スヴァールバルの給与所得税は、原則として最初の1クローネから計算され、所得控除はありません。
ノルウェーの国民保険に加入している場合は、社会保険料7.6%も加わり、年収約164万NOK(約2,700万円)までは給与から引かれる割合が合計15.6%になります。
■ ノルウェー本土との比較
| 項目 | スヴァールバル | ノルウェー本土 |
|---|---|---|
| 給与にかかる所得税 | 年収約164万NOKまで8%、超過部分は22% | 控除後の所得に22%+所得に応じた段階税1.7〜17.8% |
| 社会保険料(給与) | 7.6% | 7.6% |
| 付加価値税(VAT) | VAT対象地域外 | 標準25% |
※スヴァールバルの8%は原則として給与総額にかかる一方、本土の22%は各種控除後の所得にかかります。そのため、表の数字だけで実際の税負担を単純比較することはできません。
【年収70万NOKの場合】
年収70万NOK(約1,162万円)の会社員で比べると、次のような違いがあります。
- スヴァールバル
所得税・社会保険料:109,200 NOK
手取り額の目安:590,800 NOK - ノルウェー本土
所得税・段階税・社会保険料:約177,800 NOK
手取り額の目安:約522,200 NOK
同じ年収でも、スヴァールバルでは年間の手取り額が約68,600 NOK(約114万円)多く残る計算です。
※2026年の税率を使用。17〜69歳の国民保険加入者で、給与以外の所得がなく、本土では基礎的な控除のみを適用する場合の概算です。実際の税額は条件により異なります。
また、スヴァールバルはVATの対象地域外ですが、商品が必ず安いわけではありません。
輸送費などの影響もあり、食料品をはじめとする物価は全体的に高めです。
それでも、給与から引かれる税金が本土より低く抑えられていることは、スヴァールバルで暮らす大きなメリットのひとつです。
勤務先によっては住宅補助がある
ロングイェールビーンでは、住宅を建てられる場所が少ないうえ、町をこれ以上大きくしない方針もあり、住宅数は限られています。
民間で借りられる物件は少なく、家賃もかなり高めです。
その一方で、町の住宅は仕事と結びついていることが多く、勤務先によっては次のような待遇があります。
- 社宅の提供
- 家賃の一部補助
- 本土への航空券や極地勤務に伴う手当
ただし、こうした待遇は住民が一律に受けられる制度ではなく、内容は勤務先や雇用契約によってさまざまです。住宅補助が付かない仕事もあります。
私たち夫婦の場合、会社が負担してくれているのは家賃の7〜8割。
そのおかげで、高い家賃を全額支払わずに済み、本当に助かっています。
北極の自然を日常的に感じられる

ロングイェールビーンの周囲には、氷河やツンドラ、雪山が広がっています。
町での生活と北極の自然が、すぐ隣り合っているような場所です。
スヴァールバル諸島は、陸地の約60%が氷河に覆われており、町を離れると人工物のほとんどない景色がどこまでも続きます。
野生動物を身近に感じられることも、ここならでは。
町の中やその周辺では、スヴァールバルトナカイやホッキョクギツネ、ライチョウが姿を見せます。
私自身も、家の窓からトナカイやライチョウが見えたり、散歩中にホッキョクギツネを見かけたりします。
この自然との距離の近さは、移住5年目になっても変わらず感じるスヴァールバルの魅力です。
夏のあいだは、天気がよければ家族でボートに乗って海へ出かけます。
氷河を眺め、クジラやベルーガに出会った週末の様子は、こちらの記事で紹介しています。
スヴァールバルで暮らして感じたデメリット
スヴァールバルでの生活にはさまざまな魅力がある一方、実際に暮らして初めて分かった不便さや大変さもあります。
ここからは、移住5年目に感じていたスヴァールバル暮らしのデメリットを紹介します。
厳しい寒さと白夜・極夜が生活に影響する

ロングイェールビーンでは、一年のうち約8か月にわたって町に雪があり、氷点下の気温が続く時期も長くなります。
夏でも気温は10℃前後。厚手の上着や雪靴が必要な期間が長く、暖かい季節はほんのわずかです。
こうした寒さに加えて、生活リズムに影響するのが、季節による明るさの変化。
- 白夜:太陽が沈まない時期が約4か月
- 極夜:太陽が地平線から昇らない時期が約4か月
移住したばかりの頃は、真夜中まで明るいことも、一日中太陽が昇らないことも新鮮に感じました。
ところが、それが何週間、何か月と続くと、時間の感覚や生活リズムを保つのが難しくなります。
白夜は夜になっても眠る時間を意識しにくく、極夜は朝を迎えても一日の始まりを感じにくい時期です。
人によっては睡眠のリズムや気分に影響が出ることもあり、私自身も慣れるまで時間がかかりました。
厳しい寒さも白夜や極夜も、スヴァールバルらしい環境の一部。
ただ、毎年繰り返される日常として向き合うと、特別で楽しいことばかりではありません。
町の外ではホッキョクグマ対策が欠かせない

スヴァールバル諸島には野生のホッキョクグマが生息しており、町の外ではどこでも遭遇する可能性があります。
そのため、居住地の外へ出かける際は、ホッキョクグマを追い払うための装備が必要で、ライフルの携帯も推奨されています。
法律でライフルそのものが義務付けられているわけではありませんが、何の対策もせずに町を出るのは、文字どおり命がけです。
実際にホッキョクグマと遭遇する機会は多くありませんが、万が一出会ったときの危険が大きいため、「たぶん大丈夫」と気軽に出かけることはできません。
ライフルを扱えない場合、対策のできる人がいなければ町の外へ出るのは難しく、一人で行動できる範囲はほぼ町の中に限られます。
スヴァールバルは大自然が魅力の場所ですが、「町の外へ出るたびにホッキョクグマ対策が必要になる」という状況は、想像以上に心理的なハードルになります。
食費が高い

スヴァールバルで暮らしていて、特に負担を感じるのが食費です。
北極圏の離島ということもあり、食料品はノルウェー本土から空輸や船便で届きます。
とくに野菜や果物、肉や乳製品などの生鮮食品は、価格が高くなりがちです。
■ 2人暮らしの月々の食費
私たち夫婦は自炊が中心ですが、毎月の食費はおおよそ次のとおりです。
- スーパーで購入する食材:約12,000 NOK(約17万円)
- 月1〜2回の外食やテイクアウト:約1,000〜2,000 NOK(約1万4,000〜2万8,000円)
- 1か月の食費合計:約13,000〜14,000 NOK(約18万〜20万円)
特別に贅沢をしているわけでも、たくさん食べるわけでもありません。
それでも毎月これだけかかってしまいます。
現地スーパーの商品価格や品揃えは、別記事の「スヴァールバルのスーパー事情|物価と品揃え」で詳しく紹介しています。
欲しい物が簡単には手に入らない
ロングイェールビーンで、食品や日用品を購入できるスーパーは、「Svalbardbutikken」の1店舗だけです。
一通りの商品はそろっていますが、欲しい物が売り切れていても、別のスーパーを回って探すことはできません。
次の入荷を待つか、代わりの商品でなんとかすることになります。
さらに、悪天候や機体トラブルで貨物機の到着が遅れると、生鮮食品の棚が一気に空になることも。
「店になければ、ネットで買えばいいのでは?」と思うかもしれません。
ところが、スヴァールバルではネット通販も一筋縄ではいきません。
通関や配送のルールが本土とは異なり、配送先としてスヴァールバルを選べないオンラインショップも多くあります。
私の体感では、ノルウェーのオンラインショップのうち、スヴァールバルへの配送状況はおおよそ次のような割合です。
- 約8割:スヴァールバルへの配送に対応していない
- 約1割:配送はできるものの、送料が驚くほど高い
- 約1割:比較的良心的な送料、またはVATを差し引いた価格で購入できる
感覚としては、10店舗探して、使える店がようやく1店舗見つかるくらいです。
しかも、注文できる店が見つかれば終わりではありません。
発送された荷物の追跡が北ノルウェーのトロムソで止まり、そのまま届かないこともあります。
無事に届くまでは安心できず、ネット通販はまさに「届いたら勝ち」という世界です。
欲しい物が見つからないときは、代用品でやりくりしたり、中古品やフリマで探したり。
中古品は、スヴァールバル暮らしのちょっとした救世主です。
大自然は豊かでも、買い物の選択肢は驚くほど限られています。
必要な物が必要なときに手に入るとは限らない――それも、スヴァールバル暮らしの日常です。
夏服や誕生日プレゼントをオンラインで注文したときの出来事は、こちらの記事にまとめています。
住宅不足で、家探しが難しい

ロングイェールビーンでの家探しは、「広さや立地を比べながら好きな物件を選ぶ」という普通の感覚では進みません。
町の住宅の7割以上は国や公的機関が所有しており、その多くが勤務先を通して提供されています。
個人で借りられる物件は少ないため、次のようなことも珍しくありません。
- 仕事は決まったのに、住む場所が見つからない
- 現地で暮らしていても、次の住まいが決まらない
住宅が不足している背景にあるのが、2015年と2017年の雪崩です。
危険な場所にあった住宅が撤去されたうえ、安全に建てられる土地も限られています。
さらに、政府は町をこれ以上大きくしない方針で、住宅の総数も雪崩前の水準を超えて増やさないとしています。
そのため、家探しは「条件に合う物件を選ぶ」というより、空きが出たら即入居、選べたら奇跡という状況。
私自身も、スヴァールバルに来てから4年間で3回の引っ越しを経験しています。
しかも、ロングイェールビーンには一般的な引っ越し業者がありません。
町が小さいので引っ越し先までの距離は近くても、大型家具が軽くなるわけではなく、すべて自分たちで運ぶのはかなり大変です。
カラフルな家が並ぶ町の風景はかわいらしく見えますが、その裏では、住む場所を確保するだけでも一苦労。
家を自由に選べず、引っ越しも自力というのが、ロングイェールビーンの住宅事情です。
島から出るだけで旅費が高い
スヴァールバルはノルウェーの一部とはいえ、北極圏の離島。
ノルウェー本土へ移動する手段は、実質的に飛行機だけです。
ロングイェールビーンからはオスロとトロムソへの定期便があり、アクセス自体はそれほど悪くありません。
問題は、島から出るだけでもまとまった費用がかかることです。
私が航空券を予約するときの目安は、
- 片道:約2,000〜4,500 NOK(約28,000~63,000円)
- 往復:約4,000〜9,000 NOK(約56,000~12万6,000円)
安い日もありますが、休暇の時期や予約するタイミングによっては、本土への往復だけでもかなりの金額になります。
さらに、海外旅行や日本への一時帰国では、多くの場合、まずオスロまで移動し、そこから別の飛行機に乗り継がなければなりません。
便の接続が合わないと、オスロでの前泊や後泊も必要です。
行きと帰りの両方で宿泊することもあり、本土往復の航空券とオスロでの宿泊だけで、1人8万〜16万円ほどかかることもあります。
もちろん、ここに目的地までの航空券代が加わります。
そのため、本土に住む家族や友人にも、気軽には会いに行けません。
「週末にちょっと」とはいかず、毎回きちんと予定と予算を組む必要があります。
ビザ不要の意外な“落とし穴”
スヴァールバルでは、外国人もビザや居住許可なしで暮らせます。
制度だけを見ると、暮らし始めるまでの手続きはとても簡単に思えるかもしれません。
ところが、本土とは制度が異なるため、長く暮らすうちに主に2つの不便にぶつかります。
① Dナンバーに対応していない手続きがある
ノルウェーでは、銀行口座や携帯電話の契約、行政手続きなどに、個人番号(fødselsnummer)が広く使われています。
一方、国外からスヴァールバルへ直接移住した外国人の場合、本土の住民に発行される個人番号ではなく、Dナンバーを使うのが基本です。
スヴァールバルに何年暮らしても、それだけで個人番号に切り替わるわけではありません。
そのため、手続きの際に次のようなことが起こります。
- オンラインフォームがDナンバーに対応していない
- 本人確認をオンラインで完了できない
- 担当者にスヴァールバルの事情を説明する必要がある
本土の個人番号を前提に作られたサービスでは、思わぬところで時間がかかります。
② 空港や入国審査で説明を求められることがある
スヴァールバルはノルウェーの一部ですが、シェンゲン圏には含まれていません。
また、スヴァールバルで暮らせることが、そのままノルウェー本土の滞在許可になるわけでもありません。
私の場合、空港のチェックインや入国審査で、
- 「長期滞在なら、ビザや居住許可はありますか?」
- 「どの資格でノルウェーに住んでいるのですか?」
と尋ねられ、スヴァールバルの制度を説明することがあります。
説明すれば問題はありませんが、担当者がスヴァールバルの制度に詳しくないと、確認に時間がかかることも。
特にノルウェー以外の国を経由するときは、「無事にスヴァールバルへ帰れるだろうか」と毎回少し緊張します。
この「制度の隙間」にいるような不便さは、長く暮らして初めて気づいたことのひとつです。
経済面でも生活面でも「自立」が求められる
スヴァールバルは、ノルウェー本土より税金が低い一方、生活支援や介護サービスも限られています。
北欧といえば「高福祉」のイメージがありますが、ロングイェールビーンは、老後まで暮らし続けることを前提に作られた町ではありません。
本土では受けられる次のような支援も、ここでは対象外。
- 生活保護にあたる支援
- 訪問介護や継続的な生活支援
- 介護施設への入居
こうした支援が必要になれば、ノルウェー本土や母国へ移ることになります。
■ 経済的に生活を維持できなければ、退去の可能性も
スヴァールバルでは、国籍にかかわらず、自分で生活費を賄えるだけの経済力が求められます。
一年の大半が氷点下になる島では、ホームレスのまま暮らすという選択肢は、現実的にありません。
ここで暮らし続けるのが難しくなるのは、たとえば次のようなときです。
- 収入や貯蓄が尽き、生活費を賄えない
- 住まいを確保できない
つまり、この島で暮らし続けるには、自分で生活費と住まいを確保できることと、島内の限られたサービスで生活できることが重要になります。
医療体制が最低限にとどまる

ロングイェールビーンには、公立の小さな病院が1つあります。
普段の診察や救急対応、レントゲンなどは受けられるため、町に病院があること自体は心強いところです。
ただし、設備や診療内容には限りがあります。
島内で対応できないのは、たとえば次のような医療です。
- 精密な検査
- 予定された手術
- 専門的な診察や治療
これらが必要になると、飛行機でノルウェー北部のトロムソまで行かなければなりません。
診察時間とフライトの接続が合わず、通院だけで2泊3日になることも。
治療が一度で終わらなければ、そのたびに本土を往復することになり、移動時間や予定調整の負担も大きくなります。
■ 緊急時は航空救急で本土へ搬送
ロングイェールビーン病院で対応できない重症の場合は、必要な処置をしたうえで、航空救急によって本土の病院へ搬送されます。
トロムソとロングイェールビーンの間は、飛行だけでも約2時間。
航空機の手配や準備も含めると、搬送の必要が伝えられてからロングイェールビーンに到着するまでには、さらに長くかかります。
2022年には実際に、搬送の必要が伝えられてから航空救急が到着するまで8時間かかり、患者が亡くなった事例もありました。
つまり、本土ならすぐに受けられる治療でも、スヴァールバルでは搬送が間に合わない可能性があるということ。
こうした医療体制の制約は、出産にも表れています。
病院には分娩室がないため、出産はノルウェー本土または母国で行うのが基本です。
スヴァールバルでの妊娠・出産については、別記事の「スヴァールバルでの出産体験」で詳しく紹介しています。
まとめ|1年だけの予定が、気づけば5年に
私がスヴァールバルで暮らし始めたのは、夫の仕事がきっかけでした。
当初は1年間だけ滞在し、その後はノルウェー本土へ移る予定。
私自身も、ここで長く暮らすとは考えていませんでした。
ところが、コロナ禍で移動が難しくなり、1年の予定は少しずつ延びていきます。
気づけば、移住して5年目を迎えていました。
移住したばかりの頃は、寒さや白夜・極夜、買い物の不便さなど、デメリットのほうが目についたんです。
それでも、暮らすうちにこの特殊な環境にも慣れ、今では「ここに移住してよかった」と素直に思えるようになりました。
もちろん、医療や福祉、住宅、気候などを考えると、誰にでも合う場所でも、老後まで安心して暮らせる場所でもありません。
1年だけの予定が5年になったのは、暮らしやすかったからではなく、不便さを上回るほど、この土地にしかない魅力に少しずつ惹かれていったからだと思います。
📖 北極で働く暮らしに興味があるなら
🔹『オーロラの下、北極で働く』
スヴァールバルの研究拠点・ニーオーレスンで働いた著者の滞在記。
観光では見えにくい、北極での暮らしや仕事の雰囲気に触れられる一冊です。



