スヴァールバル諸島に移住したのは 2019年の春。
気がつけば、先月で在住5年目に入りました。
「北極圏での暮らしって実際どうなの?」「移住すると、どんな良いところ・大変なところがあるの?」
そんな疑問に答えるために、
実際に暮らしてわかった“スヴァールバル移住のリアル” を、メリット・デメリットの両面からまとめました。
暮らしや移住に興味のある方に、ひとつの体験談として参考にしてもらえたら嬉しいです。
スヴァールバル移住のメリット【在住者視点で解説】
スヴァールバル諸島での生活は、便利さとはほど遠い面もありますが、その一方で 「ここでしか味わえない魅力」もたくさんあります。
まずは、日常生活の中で実感しているメリットからご紹介します。
① 生活環境のメリット

徒歩で暮らせるコンパクトな町
スヴァールバルの中心地・ロングイェールビーンは“とにかくコンパクト”。
町の端から端まで 約3km、ゆっくり歩いても 1時間以内 で移動できます。
中心部には、
- スーパー
- カフェ・レストラン
- 学校
- 病院
- 郵便局
- 図書館
- ショッピングモール
など生活に必要な施設がひと通りそろっており、生活圏はすべて徒歩で完結します。
私自身も5年間ほとんど徒歩で暮らしていて、「車があれば便利だけれど、なくても普段の生活には困らない」 というのが正直な実感です。
そのため、公共交通機関はタクシーと空港へのシャトルバスのみ。
徒歩だけで生活が成り立つこの規模感は、
スヴァールバルならではの 静かでストレスの少ない暮らしやすさ を感じるポイントです。
日本並みに安心できる治安
スヴァールバル諸島は、日本と同じか、それ以上に 治安の良い場所 です。
スリ・置き引き・強盗といった都市型のトラブルはほぼ皆無。
家や車に鍵をかけなかったり、落とし物が持ち主のもとへ戻ってきたりするのも、この島ではごく日常的な光景です。
実際に現地で暮らしていて、日常生活の中で「危ない」と感じる場面はほとんどありません。
ただし例外がひとつ──
町の外へ出る際のホッキョクグマのリスク。
これは治安とは別の“自然リスク”ですが、それを除けば、日本よりも安心して過ごせています。
また、この島は住民の入れ替わりが非常に激しく、田舎特有の濃いご近所づきあいがほぼないのも特徴です。
一方で、厳しい環境で暮らすからこそ
“いざというときは助け合う” という連帯感も強く、この独特の距離感と安心感がスヴァールバル暮らしの心地よさにつながっています。
英語で暮らせる国際的な環境
スヴァールバル諸島はノルウェー領ですが、ノルウェー語が話せなくても日常生活にはほとんど困りません。
というのも、
ロングイェールビーンは“とても国際的な町”で、住民の約4割が海外出身。
そのため、レストラン・スーパー・公共施設など、町のあらゆる場所で英語が自然に使われています。
ノルウェー人は英語が非常に堪能なので、接客や案内、病院の診察まですべて英語で対応可能。
実際、私自身も生活の中で「英語が通じなくて困った」という場面は一度もありません。
海外移住で一番の不安になりやすい “言葉の壁” がとても低いのは、スヴァールバル移住の大きなメリット。
ノルウェー語をゼロから勉強する必要はなく、英語がある程度話せれば、生活のスタートは驚くほどスムーズです。
ただし、ひとつだけ補足すると──
現地で仕事を探す場合は、ノルウェー語が必須または有利になることが多いです。
長く暮らす予定があるなら、ノルウェー語を少しずつ学んでおくと、仕事の幅が広がりやすくなります。
花粉ゼロで快適な春
スヴァールバルには、日本のような「花粉シーズン」がありません。
というのも、この地域は寒帯のツンドラ気候で、
花粉症の原因になる木がそもそも育たないからです。
一年の大半は雪に覆われ、植物が芽吹くのは短い夏だけ。
その夏も気温が低く乾燥しているため、植物の繁殖はとても控えめです。
その結果──
春でも鼻がムズムズしない。
目がかゆくなることもない。
花粉症がある人にとっては、まさに“天国のような快適さ”です。
私自身、日本にいた頃は毎年春になると軽い花粉症に悩まされていましたが、
スヴァールバルに移住してからは一度も症状が出ていません。
「外に出るのが気持ちいい春」を過ごせるのは、暮らしの中で意外と大きなメリットです。
② お金・制度のメリット

本土より圧倒的に低い税金
北欧といえば「税金が高い」というイメージがありますが、
スヴァールバル諸島はノルウェー本土とは別の税制度が適用される特別区域。
そのため、
- 付加価値税(VAT)が原則なし
- 所得税率が本土より大幅に低い
という大きなメリットがあります。
- 所得税の低率区分:8%
(国民保険基礎額の12倍までの所得に適用) - 高率区分:22%
(上記金額を超える部分にのみ適用) - 社会保険料:7.7%
- VAT(付加価値税):原則非課税
簡単にいえば、「年収2200万円くらいまではずっと税率8%」というイメージです。
(※為替レートにより日本円換算は変動)
これを超える部分だけ22%になる仕組みで、北欧では極めて税負担の軽い地域といえます。
■ ノルウェー本土との比較
| 項目 | スヴァールバル | ノルウェー本土 |
|---|---|---|
| 所得税率 | 8% / 22% | 22%+累進課税(1.7〜17.5%) |
| 社会保険料 | 7.7% | 8.2% |
| 付加価値税(VAT) | なし | 25%(標準)※軽減税率あり |
本土と比べると、
スヴァールバルは“手取りが多くなる”仕組みがはっきりしています。
物価自体は高いエリアですが、
この税制の軽さがそのデメリットを一定レベル緩和してくれるのは、移住者にとって大きなメリットです。
住宅手当など補助制度の手厚さ
スヴァールバルは環境保護の観点から住宅数が厳しく制限されており、
家賃相場はかなり高めです。
そのため、多くの企業や公的機関では、
- 住宅手当や家賃補助
- 通勤手当(車利用者向け)
- 極地勤務に伴うへき地手当
- 年1回の本土への航空券手当
といった 独自の手当が充実 しています。
特に公的機関や地元企業では手当が手厚い傾向があり、
私たち夫婦の場合も 家賃の7〜8割を会社が負担 してくれていて、本当に助かっています。
こうした補助があることで、家賃の高さによる負担がかなり軽減されます。
ちなみに、スヴァールバルの給与水準は、オスロなど本土の大都市と比べると若干低めです。
しかし──
- 所得税が低い(8%〜)
- 社会保険料も低い(7.7%)
- 各種手当が充実
といった条件がそろうため、
“手取りベースでは十分”と感じられるケースが多いのが特徴です。
ビザ不要で移住できる特別ルール
スヴァールバル諸島は、1920年のスヴァールバル条約によって
ビザや居住許可なしで住んだり働いたりできる、世界でも珍しい地域です。
日本人を含む条約加盟国の市民であれば、
- 居住許可:不要
- 就労ビザ:不要
- 滞在期間の制限:なし
必要なのはパスポートだけ。
極端に言えば、思い立ったその日からでも移住できるほど手続きがシンプルです。
6か月以上滞在する場合も、到着後8日以内に行う 簡単な住民登録だけで完了。
本土のような複雑な申請や審査はありません。
この“ビザなしで移住できる”仕組みは、
スヴァールバルの移住ハードルをぐっと下げる特徴のひとつです。
③ 自然・体験のメリット

北極圏の大自然に日常的に触れられる
ロングイェールビーンの町を一歩出るだけで、視界いっぱいに広がるのは 氷河・ツンドラ・雪山といった北極そのものの景色。
スヴァールバルは島全体の約60%が氷河に覆われており、「日常のすぐ外側に、まったく別の世界がある」ような場所です。
ここでは、北極ならではのアウトドアがとても身近。
- スキー
- 犬ぞり
- スノーモービル
- アイスクライミング
- 登山・ハイキング
- カヤック
- キャンプ
…など、季節ごとにぜんぜん違う自然体験ができます。
さらに驚くのは、野生動物との距離の近さ。
セイウチ、クジラ、トナカイ、ホッキョクギツネなどが“日常の風景”として姿を見せるのも、スヴァールバルならではです。
私自身も、買い物の帰り道にトナカイとすれ違ったり、散歩中にホッキョクギツネを見かけたりと、「北極で生活しているんだな」と実感する瞬間が多くあります。
こうした圧倒的な自然環境に魅了されて、
「数年間だけでも住んでみたい」と移住を決める人が多いのも納得の場所です。
スヴァールバル移住のデメリット【現地で感じたリアル】
メリットもたくさんありますが、実際に暮らしてみると「住んで初めて気づく大変さ」も少なくありません。
ここからは、私が5年間の生活の中で感じた“リアルなデメリット”を、
- 気候・環境
- 生活コスト・物流
- 法制度・移住ルール
この3つのカテゴリに分けて紹介します。
① 気候・環境のデメリット

厳しい気候と極端な日照サイクル
スヴァールバル移住で最も大きな壁になるのが、やはり 極地ならではの厳しい気候 です。
気温は一年を通して低く、
“最も暖かい月でも平均気温が 10°C に届かない” のが当たり前。
そして、それ以上に生活へ影響するのが 明るさと暗さのサイクル です。
- 約4か月の極夜(太陽が一切昇らない)
- 約4か月の白夜(太陽が沈まない)
ロングイェールビーンは“世界最北の町”と呼ばれるだけあり、この極端なサイクルの長さは世界でもトップクラス。
最初のうちは
「真夜中なのに明るい!」
「ずっと暗いのが不思議!」
とワクワクしますが、数週間・数ヶ月続くと、想像以上に心と体に影響が出てきます。
実際、住んでいると──
- 睡眠リズムが乱れやすい
- 日中ぼんやりしがち
- 気分が沈む日が増える
- 集中力が落ちやすい
と感じることがあり、私自身も慣れるまで時間がかかりました。
そして、この環境の厳しさはデータにも表れており、
住民登録して長期滞在している居住者の 平均滞在年数は “約3年半” といわれています。
「長く住みたいと思っていても、気候や日照のリズムが合わず本土や母国へ戻る」
という人が一定数いるのも、実際に暮らすと理解できる部分です。
もちろん、この独特の季節サイクルを“スヴァールバルらしさ”として楽しめる人もいますが、
移住を考えるなら必ず向き合うことになるポイントです。
町の外へ出るにはライフルが必須

スヴァールバル諸島には野生の ホッキョクグマ が生息しており、町の外は常に“遭遇の可能性があるエリア”です。
そのため、居住地の外へ出かける際はライフル銃の携帯が強く推奨 されています。
法律で義務化されているわけではありませんが、武器なしで町を出るのは実質“命がけ”。
ホッキョクグマは基本的には人間を避けますが、空腹時や驚かせてしまった場合には襲う可能性もあり、
自衛手段を持たずに外へ出るのは非常に危険とされています。

ライフル銃の携帯は暗黙のルール!
銃の許可を持たない場合、一人で町の外へ行くことは基本できず、行動範囲は町の中だけ に制限されてしまいます。
そのため、
- アウトドアが好きな人
- ハイキングや写真撮影をしたい人
にとって、銃の所持許可取得はほぼ必須です。
スヴァールバルは大自然が魅力の場所ですが、
「銃がないと外へ行けない」という状況は、想像以上に 心理的なハードル になります。
私自身も移住当初は気軽に散歩したり撮影に出かけたいと思っていましたが、外に出るには銃の許可・装備・天候確認などの準備が必要。
本土のように“思い立ったらすぐ外に行く”という感覚では動けませんでした。
大自然に囲まれている一方で、行動の自由度が極端に下がる というのは、スヴァールバル移住の大きなデメリットです。
② 生活コスト・物流のデメリット

生活コストの高さ
スヴァールバル諸島は北極圏の離島で、物資のほとんどをノルウェー本土から空輸や船便で運んでいます。
そのため、生活コストは本土よりさらに高くなりがちです。

特に影響が大きいのが食費!
- 生鮮食品はほぼすべて“空輸”
- 物流の遅れで品切れが起きることも
- 鮮度の高い野菜・果物ほど価格が上がりやすい
など、離島らしいコスト構造になっています。
■ 2人暮らしの「リアルな月々の食費」
私たち夫婦(二人暮らし)の場合、
自炊中心でも月の食材費は 12,000 NOK 前後(約17万円)。
これはあくまでスーパーで購入した食材のみで、外食は含まれていません。
外食は北欧らしく価格が高めで、気軽に頻繁に行ける感じではありませんが、
月に1〜2回、ピザやハンバーガーなどのテイクアウトを利用することはあります。
その場合の外食費が 1,000〜2,000 NOK(約14,000〜28,000円)程度。
結果として、
食費合計:
13,000〜14,000 NOK(約18万円〜20万円)
というのが、私たちにとって一番現実的な平均値です。
「特別に贅沢をしているわけでも、たくさん食べるわけでもない」という点を踏まえると、2人暮らしの一般的な月額として参考になると思います。
現地スーパーの価格や品揃えについては、こちらで紹介しています。
▶ スヴァールバル諸島の物価まとめ
欲しい物が手に入りにくい環境
スヴァールバルの中心地ロングイェールビーンには、スーパーが「Svalbardbutikken」1店舗のみ。
食品から日用品まで一通りそろうとはいえ、離島という特性上、
- 欲しい商品が売り切れている
- 次の入荷まで数日〜数週間待ち
- 品薄がしばらく続く
といったことは日常茶飯事です。
さらに、2023年から貨物機が 週4便 →週2便へ減便。
悪天候や機体トラブルで飛行機が来なかった日は、
スーパーの生鮮棚が一気に空っぽになる ことも珍しくありません。
「じゃあネットで買えばいいのでは?」と思うかもしれませんが、
これがまた 一筋縄ではいきません。
通関や配送ルールの関係で、ノルウェー国内のオンラインストアの多くは、スヴァールバル諸島への配送対象外。
そのため、
- 「ノルウェー本土に配送可能」なショップを探す
- さらに「スヴァールバルまで配送してくれる業者」かどうか確認する
という二段階チェックが必要になります。
場合によっては、ノルウェー北部のトロムソで配送が止まってしまい、そこから先へ届かない…なんてことも。
■ スヴァールバル暮らしで実際に起こること
- 欲しい物が買えない
- 代替品でなんとかやりくり
- 中古品やフリマが生活の救世主
- ネット通販は“届いたら勝ち”の世界
大自然は豊かでも、買い物の選択肢は本当に限られています。
「手に入らない」という不自由さを楽しめるかどうか は、移住の満足度を左右する大きなポイントです。
深刻な住宅不足で家探しが困難

スヴァールバル移住でもっとも大きな壁と言われるのが、「住まいの確保」です。
深刻な住宅不足の影響で──
- 仕事は決まったのに、住む場所が見つからず移住できない
- すでに現地で暮らしているのに、新しい住まいが見つからず困っている
というケースは珍しくありません。

なぜこんなに住宅が不足しているの?
主な理由は次のとおり:
- 観光産業が急成長し、労働者として来る人が増えた
- 雪崩で倒壊した家屋の撤去や、安全基準の強化で住宅数が減少
- 町の無秩序な拡大を避けたい政府方針で、新築がほとんど許可されない
その結果、ロングイェールビーンの住宅は常に争奪戦状態。
「条件に合う物件を探す」のではなく
“空きが出たら即入居、選べたら奇跡” という状況です。
私自身も、スヴァールバルに来てから 4年間で3回の引っ越し を経験しました。
しかも、この島には 引っ越し業者がありません。
距離が近いとはいえ、大型家具をすべて自分たちで運ぶのはかなり大変です。
■ 家探しの難しさ=移住の難しさ
スヴァールバルでは、
- 仕事があるかより、家があるかのほうが重要
- 家が確保できないと移住そのものが成立しない
という逆転現象が起きています。
住宅不足は単なる不便さではなく、移住を継続できるかどうかを左右する大きなデメリット といえます。
島から出るだけで旅費が高い
スヴァールバルはヨーロッパの一部とはいえ、北極圏の離島。
そのため、「島から出る=まとまった費用がかかる」のは避けられません。
スヴァールバル空港からは、ルウェー本土のオスロ(約3時間)とトロムソ(約1.5時間)へ毎日フライトがあり、アクセス自体は悪くありません。
しかし──
スヴァールバル発着の航空券は常に割高。
本土へ行くにも、“ちょっと行ってくる” という感覚では使えない価格帯です。
スヴァールバル → 本土(トロムソ or オスロ)の目安は、
- 片道:2,000〜4,500 NOK
- 往復:4,000〜9,000 NOK
さらに、海外へ出る場合は オスロでの前泊がほぼ必須 になります。
そのため、
- オスロ往復の航空券
- 行きと帰りの前泊(計2泊の宿泊費)
合計すると、1人あたり 8万〜15万円ほど かかってしまうことも。
結果として、ヨーロッパに住んでいても本土とは違い、
- 週末に気軽にほかの国へ行く
- 家族や友人に会うためにひとっ飛び
といった行動がかなり難しくなります。
スヴァールバルに住む=旅行のハードルが高い
これは移住後に実感する人が非常に多い、大きなデメリットのひとつです。
③ 法制度・移住ルールのデメリット
ビザ不要制度の意外な“落とし穴”
「ビザ不要=手続きが楽」ですが、
“ビザがないからこそ起きる不便”が生活のあちこちで発生します。
スヴァールバル諸島は、ビザや居住許可なしで長期滞在できる、世界でも数少ない地域です。
短期滞在や移住初期には、この手軽さは大きなメリットに感じます。
しかし、実際に長く暮らしてみると──
「ビザがないからこそ面倒になる」場面が意外と多いことに気づきます。
困るポイントは主に次の2つ。
① ノルウェー本土の“個人番号(ID)”がもらえない
スヴァールバルの居住者は、ノルウェー本土の住民として扱われないため、
永住しても一生「仮のDナンバー」のままです。
この影響で、
- 銀行口座の開設
- 携帯電話の契約
- 行政手続き
- 本人確認が必要なオンラインサービス
などで思わぬ壁にぶつかることがあります。
多くのサービスが「ノルウェー正規のID番号前提」で作られているため、
フォームに入力できなかったり、担当者に説明が必要だったりと、手続きが面倒になりがちです。
② 空港チェックインや入国審査で説明が必要になる
スヴァールバルの制度は、北欧内でも理解していない職員が多い“特殊ケース”。
旅行のたびに、
- 「長期滞在ならビザか滞在許可を提示してください」
- 「あなたはどの資格でノルウェーに住んでいるの?」
と質問され、説明が必要になります。
もちろん説明すれば問題はないのですが、
審査官の理解度次第で時間がかかるのが現実です。
特にノルウェー以外の国を経由したときは、「無事にスヴァールバルへ帰れるだろうか…」と毎回少し緊張します。
「手続きなしで移住できる」のは間違いなく大きな利点です。
ただし長期で暮らすほど、こうした細かな不便が積み重なってきます。
経済的・身体的な自立が必須
スヴァールバルは“税金が低い”という大きなメリットがある一方で、
その裏側には「社会福祉が一切適用されない」という厳しいルール があります。
北欧に多い「高福祉・高負担」のイメージとは真逆で、
スヴァールバルは 低負担・低福祉の完全自己責任型の地域 です。
たとえばノルウェー本土なら受けられる、
- 生活保護
- 障害者向け支援
- 高齢者向けのケアサービス
といった公的サポートは、ノルウェー国籍の住民であってもスヴァールバルでは対象外です。
■ 経済的に生活を維持できない → 退去の対象に
スヴァールバルは一年中厳しい自然環境にさらされているため、
もしホームレス状態になれば 生命の危険 に直結します。
そのため行政は、次のような場合に退去を求めることがあります。
- 経済的に自立できず、生活を維持できない
- 病気・障害・高齢などで日常生活に支援が必要
- 自力で安全に暮らすのが難しい状態になる
つまり、この島で暮らすには、
「働けること」「健康であること」「自分で身の回りの管理ができること」が最低条件。
特に高齢になるほど、ここでの暮らしを継続するのは難しくなる…というのが現実です。
医療体制が最低限にとどまる
ロングイェールビーンには、公立の小さな病院が1つあります。
ただし医療設備は限られており、ここで受けられるのは“応急処置レベルの最低限医療”です。
検査・手術・専門的治療が必要な場合は、ノルウェー北部のトロムソまで行く 必要があります。
フライトスケジュールの関係上、最短でも2泊3日の旅行 に。
頻繁な通院が必要な病気にかかると、費用・時間ともに大きな負担になります。
■ 緊急搬送は“医療用チャーター機”で空輸
ロングイェールビーンの病院で対応できない重症の場合、ドクタージェット(医療用チャーター機)で本土へ空輸されます。
飛行時間の目安:
- プロペラ機:約2時間20分
- ジェット機:約1時間30分
ただしこのジェットは スヴァールバルに常駐していません。
基本的に本土から飛んでくるため、天候や準備状況によっては待機時間が発生します。
さらに、トロムソ側の病院も受け入れ準備に数時間かかることも。
つまり──
「本土であれば助かるケースでも、スヴァールバルでは間に合わない可能性がある」という現実があります。
こうした事情から、出産も原則できません。
緊急時を除き、妊婦さんはノルウェー本土での出産を勧められています。
スヴァールバルでの妊娠・出産の実情については、私の出産体験をまとめたこちらの記事で詳しく紹介しています。
▶【スヴァールバル諸島】生まれてはいけないって本当?出産体験から見えた真実
スヴァールバルに移住した理由
ここまでメリットとデメリットを紹介してきましたが、
「そもそも、なぜこの極地で暮らしているの?」と気になった方もいるかもしれません。
私がスヴァールバルで暮らすようになったきっかけは、ノルウェー人の夫との出会いでした。
当初は夫の仕事の都合で1年間だけ滞在し、終了後はノルウェー本土へ移る予定。
夫自身も「ここは環境が厳しいから、長く住むのは大変かも」と心配していましたし、私も長期滞在はまったく想定していませんでした。
ところが、コロナ禍で移動が難しくなったこともあって、その“1年の予定”はいつの間にか延びていき──気づけば5年。
最初は不安だらけだったこの土地も、
極地の雄大な自然や静かで落ち着いた暮らしに少しずつ惹かれるようになり、
「ここで過ごす時間も悪くないな」と思えるようになりました。
まとめ|スヴァールバルで暮らしてわかったこと
今回は、実際にスヴァールバル諸島で暮らして感じたメリットとデメリットのリアルを紹介しました。
移住当初はデメリットのほうが目立ち、この特殊な環境に慣れるまで苦労も多かったです。
それでも、ここでの暮らしは他では得られない体験の連続でした。
今では、「移住してよかった」と素直に思えていますし、厳しくも美しいこの土地には深い愛着があります。
とはいえ、スヴァールバルは 永住向きの場所ではありません。
医療や福祉、住宅、気候、行動の制限など、長期滞在には確かなハードルがあります。
ただし──
数か月~数年単位の“短期移住”であれば、非常に魅力的な選択肢 です。
特に、
- ノマドワーカー
- まとまった移住資金がある人
- 英語環境で暮らしたい人
- 海外生活を柔軟に試したい人
こうした方にとって、スヴァールバルは
ビザ不要で英語だけで暮らせる、世界でも極めて珍しい“極地の移住先”になります。
極地での暮らしは決して楽ではありませんが、「人生で一度は住んでみたい場所」としては、これ以上ないほど特別な体験になるはずです。

