【在住5年目】スヴァールバル諸島へ移住のメリット・デメリット

暮らし

スヴァールバル諸島へ移住したのは、2019年の春。先月でちょうど在住5年目になりました。

そこで、今回は実際に現地で暮らしていて感じるメリットやデメリットを紹介したいと思います。

スヴァールバル諸島への移住や暮らしに興味がある方は、一つの意見として読んでみてください。

スヴァールバル諸島へ移住って実際どうなの?

結論から言うと、

スヴァールバル諸島への移住はメリットよりデメリットのほうが多い。
旅行や短期間のプチ移住であれば、魅力的な場所!

スヴァールバル諸島へ移住した理由

まず初めに、私がスヴァールバル諸島へ移住した理由を簡単にいうと、ノルウェー人の夫に出会ったから。

移住当初は夫の仕事の都合などを考慮して、1年ほどスヴァールバル諸島に住む予定でした。

夫は私にはスヴァールバル諸島の気候や生活環境が合わないだろうと思っていたし、自分でも向いていないと思っていたので、将来的には引っ越そうという話に。

けれども、コロナ禍で身動きが取れなくなって数年が経ち、いつの間にかスヴァールバル諸島の生活に慣れてしまいました。

今ではスヴァールバル諸島の暮らしが楽しめるようになり、すぐに引っ越す必要性がなくなりました。

スヴァールバル移住のメリット

正直に言うと、スヴァールバル諸島での暮らしはメリットよりデメリットのほうが多いと思います。

ですが、デメリットをカバーする魅力があるのも確かです。

最初に紹介する4つのメリットは、スバールバル諸島に移住する大半の人の理由かと思います。

日本人はビザなしで移住できる

1920年のパリ会議で締結されたスヴァールバル条約により、スヴァールバル諸島はビザなしで長期滞在ができる世界でも数少ない場所。

条約に署名した国の市民であれば、滞在するための居住許可や就労許可は必要ありません。

移住前に面倒な手続きは一切なく、パスポートさえあれば、明日からでも移住できてしまいます。

とはいえ移住前の住居探しは必須!

6か月以上スヴァールバル諸島に滞在する場合は、到着後8日以内に現地の税務署で住民登録をするだけで手続きは終了。

ビザがないので滞在期間の制限などもなく、無期限に滞在し、働くことができます。

ちなみに、スヴァールバル諸島にどれだけ長く滞在してもノルウェー本土の滞在許可や永住権はもらえません。

手つかずの大自然が身近にある

氷の張ったフィヨルド

スヴァールバル諸島は、総面積の約60%が氷で覆われているツンドラの大地。

町から一歩出ると、見渡す限りの荒野が広がっています。

アウトドア好きな人や冒険心がある人は、北極圏の大自然に魅了されてしまうようです。

登山、スキー、犬ぞり、スノーモービル、アイスクライミング、狩猟、釣り、キャンプなど大自然の楽しみ方はいくらでもあります。

普段の暮らしの中で、セイウチやクジラなどの野生動物に遭遇するのも北極圏ならでは。

街中では野生のトナカイがのんびり道を横切っていたり、ホッキョクギツネがちょろちょろ走っていたりする光景が見られます。

極地の大自然を体験するために、数年間だけスヴァールバル諸島へ移住する人も少なくありません。

税金が安い

税金が高いことで知られている北欧諸国。

ノルウェーでは25%の付加価値税(VAT)があります。

軽減税率が採用され、税率は3段階。

  • 標準税率 25%
  • 食品や飲料 15%
  • 交通機関、宿泊、映画館、スポーツイベントなど 12%

スヴァールバル諸島はノルウェー領ですが、スヴァールバル条約によりノルウェーの税制度が適用されません。

ですから、スヴァールバル諸島では付加価値税や消費税が一切ありません。

所得税の税率もノルウェーに比べて低くなっています。

【スヴァールバル諸島】

  • 所得税は通常 8%
  • 社会保険料 7.9%

国民保険基本料の12倍までの所得は低率の8%、超過所得は高率の22%で計算されます。

年収1,300,000 NOK(約1700万円)を超えるあたりから高率の22%になります。

【ノルウェー】

  • 所得税は通常 22%(北ノルウェーの住民には軽減税率が適用される)
  • 所得税の累進課税 1.7%~17.5%
  • 社会保険料 8.2%

ノルウェーはスヴァールバル諸島より細かい累進課税があり、最低税率は1.7%、最大税率は17.5%の5段階です。

なお、198,350 NOK(約260万円)未満の所得には累進課税がかかりません。

手当や補助が充実

公的機関や現地の民間企業で働く際に、いろいろな手当が支給される場合があります。

スヴァールバル諸島で最も一般的なのは住宅手当や家賃補助。

支給額は会社によって異なりますが、私たち夫婦の場合は家賃相場から考えると会社が家賃の7、8割を負担してくれています。

環境保全などの理由により住宅数が限られていて家賃が高いので、ありがたい手当です。

他にも自家用車での通勤手当やへき地手当などがあります。

住宅手当などが充実している分、基本給はノルウェー本土の大都市に比べて低いようですが、スヴァールバル諸島は所得税が低いので手取りは多くなります。

すべてが徒歩圏内

ロングイェールビーンの街並み

ロングイェールビーンの町は小さく、町の端から端まで歩いても約45分ほど。

スーパー、飲食店、学校、病院、郵便局などの生活利便施設がすべて徒歩圏内にそろっています。

そのため、公共交通機関はタクシーや空港へのシャトルバスのみ。

悪天候の日などは車があれば便利ですが、なくても普段の生活では困りません。

治安がいい

日本の治安は世界でもトップクラスですが、スヴァールバル諸島も日本並かそれ以上に治安がいいです。

海外で被害に遭いやすいスリや置き引きなどの犯罪も心配ありません。

基本的に家や車に鍵をかけることはなく、貴重品などの落とし物が持ち主のもとへ戻ってきたりすることもごく普通。

唯一の心配事はホッキョクグマとの遭遇で、それ以外では日本より安心して暮らしています。

住民の入れ替わりが激しいので、田舎のような密な近所付き合いはありません。

けれども厳しい自然環境で暮らしているからこそ、いざとなれば住民同士が助け合うという信頼感があるように感じます。

日常生活は英語でOK

ノルウェー領のスヴァールバル諸島ではノルウェー語が公用語ですが、ほとんどのノルウェー人は流暢な英語を話します。

そして、ロングイェールビーンの街は国際的な雰囲気で、住民の約3割はノルウェー以外の国から移住してきた外国人です。

外国人の観光客も多いので、レストランやお店では基本的に英語が話されます。

英語がある程度話せれば、問題なく日常生活が送れます。

花粉症にならない

夏のロングイェールビーンの風景

毎年春になると、花粉症に悩まされているという人も多いのではないでしょうか。

北欧諸国でも森林が国土の大半を占めているため、春から初夏にかけて花粉症を発症する人が多くいます。

一方、スヴァールバル諸島では寒帯のツンドラ気候により、花粉症の原因となる樹木が生育しません。

短い夏は降水量が少なく、乾燥しています。

花粉症と無縁の生活はスヴァールバル諸島のいいところです。

スヴァールバル移住のデメリット

正直に言うとスヴァールバル諸島移住のデメリットは、小さなことも含めればいくらでもあります!

今回は最初に思いついた10つのことを紹介します。

厳しい気候、極端な日照時間

雪山とフィヨルド

一番のデメリットは、やはり北極圏の厳しい気候。

スヴァールバル諸島は最も暖か月でも平均気温が10℃に達しません。

一年を通して非常に寒く、一年の大半は雪と氷に覆われています。

そして、寒さよりも辛いのは暗くて長い冬。

一年のうち約4か月ずつ、太陽が沈まず一日中明るい白夜と太陽が昇らず一日中暗い極夜があります。

極点に近い場所ほど白夜と極夜の期間は長くなり、世界最北端の町だといわれているロングイェールビーンでは、世界で最も長い極夜の暗闇で暮らすことになります。

厳しい寒さや極端な日照時間に耐えられるかは、実際に体験してみないとわからないもの。

移住してみたものの生活環境が合わず、ノルウェー本土や母国へ戻る人もいます。

ライフル銃がないと町から出られない

店で販売されているライフル銃

スヴァールバル諸島にはホッキョクグマが生息しているため、町の外へ行くときはライフル銃の携帯が推奨されています。

法律で義務付けられているわけではありませんが、ホッキョクグマから身を守るものを持たずに町の外に出かけるのは自ら命を危険にさらすようなもの。

ホッキョクグマは空腹であれば人間を獲物として積極的に襲うといわれており、万が一遭遇してしまったら非常に危険です。

ライフル銃の携帯は暗黙のルール

大自然が身近にあってアウトドアを楽しみたくても、ライフル銃を所持する許可を持っていなければ、自分一人で居住地から出ることはできません。

小さな町の中だけでは行動範囲が狭く、閉じ込められたような気分になってしまいます。

島から出る航空券が高い

ヨーロッパ移住のメリットとして、よく気軽にヨーロッパ内の旅行ができることがあげられますね。

スヴァールバル諸島も北ノルウェーのトロムソや首都オスロまで毎日フライトが運航していて、辺境のわりにアクセスがいいです。

ですが、その航空券の価格はお手頃ではなく、ノルウェー本土にも気軽には行けません。

さらに日本やヨーロッパの国へ行く場合は、フライトの発着時刻の都合上、オスロ空港周辺のホテルでの宿泊が必要です。

スヴァールバル諸島から出る航空券と乗り継ぎの宿泊代だけで、1人7万円~14万円ほどのお金が飛んでいってしまいます。

ビザや滞在許可証がない

先ほどメリットとして移住の際にビザが必要ないことをあげました。

1年以内などの短期間の滞在であれば、ビザの面倒な手続きがないのは確かに大きなメリットだと思います。

けれども長期滞在していると、ビザや滞在許可証がないゆえに不都合なこともあります。

問題は大きく分けて2つ。

  • 銀行口座の開設や携帯電話の契約、行政の手続きが複雑になる
  • 空港のチェックインやシェンゲン協定域内の入国審査で手こずる

1つ目の問題は、スヴァールバル諸島に長期滞在していてもノルウェーの国民識別番号があたえられないことによるもの。

ノルウェーにも日本のマイナンバーのような国民識別番号があり、外国人が6か月以上ノルウェーに居住する場合は、ノルウェー人と同様の国民識別番号があたえられます。

居住期間が6か月未満の場合は国民識別番号ではなく、一時的な「D number」になります。

スヴァールバル諸島に住む外国籍の住民は、スバールバル諸島に居住者として登録されていても、ノルウェー本土の居住者とはみなされません。

そのため、どれだけ長くスヴァールバル諸島に滞在していても、仮の「D number」のままです。

普段はスヴァールバル諸島に滞在する外国人のことまで考慮されていないので、この矛盾により手続きなどが面倒になります。

2つ目の問題は、スヴァールバル諸島や特殊な渡航条件が知られていないことによるもの

空港カウンターでのチェックインや入国審査の際に、ビザや居住許可がなくても渡航や長期滞在ができることを説明する必要があります。

まれに説明しても怪しまれることがあり、ノルウェー以外の国で入国審査を受ける際は少しドキドキするようになりました。

食費が高い

スーパーの青果売り場

北欧諸国は物価が高いことで知られていますが、スヴァールバル諸島も例外なく物価が高いです。

特に高いのは食費!

生鮮食品はすべて空輸されていて輸送コストがかさむため、ノルウェー本土に比べても高いです。

一方、船で輸送される缶詰食品や乾物などの日持ちする食品は、消費税がない分ノルウェーより安くなるものもあります。

ある程度の健康的な食生活を送ろうと思えば、必然的に食費が高くなります。

ほしい物が手に入りにくい

ロングイェールビーンにあるスーパーは、「Svalbardbutikken」の1つのみ。

辺境にあるわりに品揃えはよく、食品から日用品まですべてをまかないますが、ときには売り切れの場合も。

そのときは他に買えるお店がないので、次の入荷まで気長に待ちます。

以前は週4回あった貨物の航空便が今年から半分の週2回になり、最近はさらに物流が滞りがちです。

悪天候や飛行機の不具合などで航空貨物が来られなかったときは、生鮮食品の棚がすっからかんになることもあります。

また、スーパーで売っていないものはオンラインで買うことになりますが、これがまた厄介。

通関手続きが複雑なため、ノルウェーのオンラインストアのほとんどはスヴァールバル諸島へ荷物を送りません。

そこで、ノルウェーへ配送できるヨーロッパ内のオンラインストアを探すことになりますが、使用される配送業者によっては北ノルウェーのトロムソで配送が止まってしまいます。

ネットでの買い物は無事に届いたらラッキー!

ほしい物があっても買えないなんてことは日常茶飯事です。

住宅不足で家探しが困難

ロングイェールビーンのカラフルな家

スヴァールバル諸島へ移住する上で一番のハードルは家探し。

深刻な住宅不足により、仕事を得たけれど住居が見つからず移住できない、または現在スヴァールバル諸島で暮らしているけれど新しい住居が見つからず困っている人が大勢います。

住宅不足の原因は?

簡単に言うと、

  • 人口の増加。観光客の増加にともない、観光産業で働く移住者が増えた
  • 雪崩による住宅の倒壊、雪崩のリスクが高い住宅の取り壊し

今以上に町の規模を大きくしたくないノルウェー政府は、住宅の建設に消極的です。

ロングイェールビーンでは選べるほどの空き物件がないので、とりあえず空いている家に入るのが一般的。

実際に私も4年間で3つのアパートを転々としました。

距離が近いとはいえ、毎回自分たちで大型家具を含む大がかりな引っ越しをするのは大変です。

経済的、身体的な自立が義務

北欧は「高福祉・高負担」の国々。

他国と比較して社会保障制度が充実しているといわれていますが、その分税率が高いことでも有名ですね。

メリットで紹介したように、スヴァールバル諸島の税率はノルウェー本土に比べてかなり低くなっています。

ですから、スヴァールバル諸島ではノルウェーの社会福祉制度は適用されず、スヴァールバル諸島の居住者は生活費や住居に対する支援をノルウェー政府から受ける権利がありません。

一年を通して厳しい自然環境なのでホームレスになるわけにはいかず、経済的に自立して生活ができない場合はスヴァールバル諸島から追い出されます。

また、病気や障害、高齢などの理由で特別なサポートが必要な場合にも支援は受けられません。

経済的にも身体的にも自力で生活を維持できることがスヴァールバル諸島に住むための条件。

ビザなどの永住許可は必要ありませんが、現実的に年をとるにつれて永住するのが難しくなります。

受けられる医療が限定的

ロングイェールビーンの街中には公立病院が1軒ありますが、病院の規模は小さく、医療機器や設備なども限られています。

そのため検査や手術を受けるときは、基本的に北ノルウェーのトロムソまで行く必要があります。

フライトスケジュールの都合上、最短でも2泊3日の旅行。

通院が必要な病気にかかった場合、その都度トロムソまで行っては費用も時間もかかってしまいます。

ロングイェールビーンの病院で対応できないような救急医療が必要な場合も、「ドクタージェット」でトロムソの病院まで運ばれます。

スヴァールバル諸島からトロムソまでの飛行時間はプロペラ機で約2時間20分、ジェット機で約1時間30分。

ドクタージェットはスヴァールバル諸島に常駐しているわけではないので、ノルウェー本土からやってくる場合は待機時間が発生してしまいます。

さらに、トロムソの空港や病院の受け入れ態勢を整えるためにも数時間。

ノルウェー本土であれば助かる命もスヴァールバル諸島では助からない可能性があり、一刻を争う事態になったときは心配です。

なお、このような状況から出産も緊急の場合を除いてスヴァールバル諸島ではできません。

ノルウェー語の上達が難しい

日常生活は英語だけでも十分に過ごせますが、現地社会に溶け込むためにはノルウェー語の習得が必要かと思います。

社会保障制度が充実しているノルウェーでは、支援の一環として難民や移民は無料で語学学校に通うことができます。

一方のスヴァールバル諸島では、外国人がノルウェー語を学ぶための語学学校やクラスなどが一切ありません。

ノルウェー語を習得したければ、独学で勉強する必要があります。

いまどきはオンライン講座を受けるという手もありますが、ノルウェー語はマイナーな言語でオンライン講座を見つけるのも一苦労。

自分のやる気の問題だと言われればそれまでですが、私はノルウェー語の上達に苦戦しています。

まとめ

実際にスヴァールバル諸島で暮らしていて感じるメリットとデメリットについて書いてみました。

移住当初はメリットよりもデメリットのほうが大きく感じられ、生活環境に適応するのに苦労していました。

けれども、他では決して体験できないようなことが日常的に体験でき、今では移住してよかったと思うし、厳しくも美しい北極圏の大自然が大好きです。

スヴァールバル諸島は永住にはあまり適していない場所ですが、短期間の滞在であれば魅力的な移住先だと思います。

特にノマドワーカーや十分な貯金がある人にとって、ビザなしで簡単に海外移住ができたり、日常生活が英語で過ごせたりするのは、大きなメリットではないでしょうか。