「夜なのに太陽が沈まない⁉︎」
そんな不思議な現象、“白夜”という言葉を耳にしたことがある方も多いかもしれません。
北緯74度~81度に位置するスヴァールバル諸島では、その白夜がなんと数か月にもわたって続きます。
なかでも、ロングイェールビーンは“世界最北の定住地”として知られ、一般の人が暮らす場所としては、白夜の期間が地球上で最も長い地域です。

暗くならないのに、寝られるの?

本当に24時間ずっと明るいの?
今回は、そんな極地ならではの不思議な現象“白夜”について、現地での暮らしの様子も交えながらご紹介します。
白夜とは?
「白夜(びゃくや)」は夜になっても太陽が沈まない、あるいは薄明るさが続く現象のこと。
北極圏や南極圏など、地球の高緯度地域で見られる自然現象で、冬にはその逆の「極夜(きょくや)」(一日中太陽が昇らない日)が訪れます。
南極圏には研究基地を除けば人間の居住地がないため、一般の人々が白夜を体験できる国や地域は北半球に限られています。
白夜が体験できる国や地域
- ノルウェー
- スウェーデン
- フィンランド
- アイスランド
- グリーンランド
- ロシア
- カナダ
- アラスカ
白夜の時期や期間

北極圏では白夜は夏の6月ごろに訪れます。一方、南極圏では12月ごろが白夜の時期です。
白夜の期間は場所によって異なり、北極や南極の極点に近づくほど長くなります。
たとえば、北緯78度に位置するスヴァールバル諸島・ロングイェールビーンでは、4月19日から8月24日までの約4か月間、太陽が一度も沈みません。
この間、24時間ずっと太陽の光に照らされる日々が128日も続きます。
この128日間はあくまで「太陽が沈まない」期間。
白夜はある日突然始まるわけではなく、始まりの前後もかなり長い時間、空が明るい状態が続きます。
夜中でもほのかに明るく、真っ暗な夜は3月上旬を最後に、10月上旬までありません。
さらに北極点では白夜はもっと長くなり、3月下旬から9月下旬まで、半年間にわたって続きます。
ちなみに、ノルウェー本土で最北端の町とされるホニングスヴォーグ(北緯70度)では、5月13日から7月31日ごろまでが白夜の時期。
こちらも約2か月半にわたって、太陽が沈まない日々が続きます。
白夜の楽しみ方
スヴァールバル諸島は、雪景色の中で白夜を体験できる、世界でもめずらしい地域です。
たとえばノルウェー本土を含む北欧諸国では、白夜が始まる5月中旬ごろはすでに雪が溶けてしまっています。
一方、スヴァールバル諸島では白夜が始まる4月下旬にもまだ十分な積雪があり、5月中旬ごろまでウィンタースポーツや雪のアクティビティが楽しめます。
日が沈まない白夜の時期は、一年の中でもっとも遠出がしやすい季節。
真冬の極夜や、夏の雪がない時期には行けない島の内陸部にも、スノーモービルやスキーで簡単にアクセスできます。
水道や電気のない山小屋(キャビン)に泊まり、自然の中で静かな時間を過ごすのが人気です。
中には、テントや食料を積んだソリを引いて島を横断するような、本格的なスキー遠征をする人もいます。
6月ごろになると雪はほとんど溶け、春とはまた違ったアクティビティが楽しめるようになります。
白夜の時期の1日の長さは自分次第です。
日が暮れることがないので、夜遅くまでたっぷりアウトドアが楽しめます。
スヴァールバル諸島の一般的な仕事の終わり時間は16時ごろ。
小さな町で通勤時間もほとんどなく、仕事帰りにスーパーに寄ったり、子どもを迎えに行ったりしても、16時半には帰宅できます。
そんな暮らしだからこそ、白夜の時期には、夕食をサッと済ませて自然の中へ出かける人も少なくありません。
特に天気がいい日には、定時より1時間ほど早く仕事を切り上げて出かけることも。
太陽が昇らず一日中暗い極夜の時期が長いからこそ、白夜の時期は少しでも多くの時間を太陽の下で過ごし、大自然を満喫します。
白夜の真夜中はどのくらい明るいの?

ひとことで「白夜」と言っても、その明るさは時期によって少しずつ違います。
白夜が始まったばかりの頃や、終わりに近づいた頃は、太陽が沈まなくても空がほんのり赤く染まり、夕焼けや朝焼けのような薄暗さがあります。
しかし、白夜の真っただ中になると、真夜中でもまるで昼間のような明るさに。
とはいえ、真っ昼間のような強い日差しではなく、午後3時〜4時くらいのやわらかい光が続くようなイメージです。
この時期には、空が赤く染まる夕焼けや朝焼けが見られなくなり、気づけば1日が終わっていた…なんてことも。
時計を見ないと、日付が変わったことすらわからないほど、時間の感覚がなくなります。
体内時計が乱れちゃう?! ずっと明るくて寝られるの?
スヴァールバル諸島では、約4か月にもわたって白夜が続きます。
さすがに長期間になると体もだんだん慣れてくるのですが、白夜が始まってすぐのころは、やっぱり少し大変。
時間の感覚がつかみにくく、気がつくと夜更かししてしまったり、寝つきが悪くなったり…。体内時計が乱れやすい時期です。
そんな白夜の時期に大事なのは「時間の感覚を自分で整えること」。
毎日決まった時間に起きて、なるべく同じ時間に眠るようにするなど、リズムを意識して生活することがポイントです。
そうしているうちに、昼夜の区別がつかない環境でも自然とペースが整い、明るくてもしっかり眠れるようになってきます。
白夜の遮光対策
白夜の時期にぐっすり眠るには、寝室をしっかり暗くすることがとても大切。

白夜がある地域って、家自体が遮光設計になってる?
まったくそんなことはなく、いたって普通の窓です。夜中でも太陽の光が遠慮なく差し込んできます。

じゃあ、遮光カーテンが大活躍?
遮光カーテンを使用している家庭もありますが、それだけは遮光対策として不十分。
カーテンの端からもれる光だけで、部屋の中がかなり明るくなってしまうんです。
そもそも、現地には遮光カーテンが買えるお店がなく、簡単には手に入りません。
そこで大活躍するのが、なんとアルミホイル!
アルミホイルは遮光性が高く、スーパーで簡単に買えるうえにコスパも抜群。
そのため、スヴァールバル諸島では多くの家庭が寝室の窓にアルミホイルを貼っています。
貼り方も簡単で、窓を霧吹きなどで軽く濡らして、そこにアルミホイルをまっすぐ密着させるだけ。
白夜が終われば簡単に取り外すことができます。
しかし、「どうせすぐに極夜(真っ暗な冬)が来るし…」ということで、年中貼りっぱなしの家庭も多いです。
見た目よりも実用性重視。そんなところにも、スヴァールバルらしさを感じます。

白夜と極夜、どちちがつらい?
これは、本当に人それぞれだと思います。
夜になっても明るい白夜は、もともと眠りが浅い人には大変でしょうし、反対に極夜は気分が落ち込みやすくなるという声もあります。
私の場合、白夜も極夜も初めてだった移住1年目は、正直どちらも同じくらいつらかったです。
白夜の間は眠っても疲れが取れず、極夜になると今度は寝ても寝ても日中に眠くなってしまって…。
体も気持ちもなんとなく重い、そんな日が続いていました。
一年を通して、気分の浮き沈みも激しかったように思います。
2年目になると、白夜と極夜がどんなものかは頭ではわかってきたけれど、まだ体のほうがついていかない感じがありました。
それが3年目には、ようやく自分なりのペースやリズム、気の持ちようがつかめるようになり、だんだんと落ち着いて過ごせるように。
そして移住して5年目の現在。白夜も極夜も、すっかり暮らしの一部になりました。
最近では、太陽のもとで思い切り自然を楽しめる白夜の季節は、つらいというより楽しみなシーズンです。
反対に、家に引きこもりがちになる極夜の季節は、やっぱり白夜ほど気が進みません。
それでも、いざ始まってしまえばオーロラを見に出かけたり、家で静かな時間を楽しんだりと、少しずつ自分なりの過ごし方が見つけられるようになりました。
まとめ
今回は、北極圏の暮らしでは欠かせない自然現象「白夜」についてご紹介しました。
時間に縛られず、大自然の中で思いきり過ごせる白夜の季節は、一年の中でも特に活気があふれる時期です。
長く厳しい冬を乗り越えたあと、北極圏の人々は太陽の光を全身で感じながら、それぞれのスタイルでこの季節を楽しんでいます。
街の雰囲気も明るくなり、訪れる人をあたたかく迎えてくれるこの時期。
一日中太陽が沈まない、そんな不思議で特別な夜を体験してみてはいかかでしょうか?