北極圏にあるスヴァールバル諸島。
その中心の町・ロングイェールビーンは、人口2,500人ほどが暮らす“世界最北の定住地”として知られています。
最近では、日本でも少しずつ名前を耳にするようになり、オーロラや白夜を体験できる旅先として注目されるようになってきました。
とはいえ、北極圏への旅はまだまだ情報が少なく、
- 「一人旅でも安全なの?」
- 「現金は必要?」
- 「英語だけで通じる?」
- 「ネット環境はあるの?」
──そんな疑問が出てくる人も多いはず。
この記事では、初めてスヴァールバル諸島を訪れる方に向けて、出発前に知っておくと安心な基本情報をまとめました。
ちょっとした不安を解消して、心から旅を楽しむためのヒントになればうれしいです。
世界最北の町はどこ?スヴァールバル諸島と主要な町の位置
スヴァールバル諸島は、北極点とノルウェー本土のほぼ中間に位置する群島です。
9つの島から成り立っていますが、人が暮らしているのは最大の「スピッツベルゲン島」だけ。
このスピッツベルゲン島は約37,000㎢の広さがあり、日本の九州とほぼ同じ大きさです。
諸島全体では約61,000㎢におよび、東北地方と同じくらいのスケール。
その雄大な自然の中に、いくつかの居住地が点在しています。
1. ロングイェールビーン(Longyearbyen)

スヴァールバル諸島の中心であり、最大の町。人口は約2,500人です。
かつて炭鉱の町として栄えましたが、現在では観光や研究、教育の拠点となっています。
小さな町ながらスーパーやレストラン、博物館もあり、旅行者が滞在しやすい環境が整っています。
この町を含むスヴァールバル諸島はノルウェーの領土ですが、1920年に締結された「スヴァールバル条約」により、ノルウェー本土とは異なる特別な法制度のもとで運営されています。
ロングイェールビーンへは飛行機でアクセス可能です。
ノルウェーの首都オスロやノルウェー北部のトロムソから通年フライトがあります。
- オスロから直行便:約3時間
- オスロからトロムソ経由便:約4時間
- スヴァ―ルバル空港からロングイェールビーン市街地までバスで約10分
2. バレンツブルク(Barentsburg)

ロシア国営企業が運営する炭鉱の町で、スヴァールバル諸島で2番目に大きな居住地。
約350人のロシア人とウクライナ人が暮らしており、街の雰囲気もどこかソ連時代を思わせる独特の空気があります。
ロングイェールビーンからは直線距離で36kmほどですが、道路はなく移動はツアー参加が基本です。
- 夏(5月下旬〜10月):クルーズツアーが週に数回運行
運行会社:Polar Charter / Henningsen Transport & Guiding - 冬(2月中旬~5月下旬):スノーモービルツアー(約60km、片道約2時間)
ツアー会社:ATC Grumant
3. ピラミーデン(Pyramiden)

ソビエト連邦時代に建設された炭鉱の町。
1998年に閉鎖され、現在は“ゴーストタウン”として知られています。
廃墟となった建物や劇場は、まるで時間が止まったかのよう。
現在は夏季限定で観光用ホテルが営業しており、ツアーで訪問が可能です。
- 夏(5月下旬〜10月):クルーズツアー(所要約10時間)
運行会社:Polar Charter / Henningsen Transport & Guiding - 冬(3〜4月):スノーモービルツアー(約110km、片道約5時間)
ツアー会社:ATC Grumant
4. ニーオーレスン(Ny-Ålesund)

北緯79度に位置する、スヴァールバル最北端の居住地。
ここは極地研究の国際的な拠点で、ノルウェーをはじめ10か国以上の研究施設が集まっています。
実は、日本の国立極地研究所もここに拠点を構えています。
普段は研究者や管理スタッフなど約40人が滞在。夏のピーク時には短期プロジェクトの滞在者を含め100人を超えることもあるそうです。
通常は研究目的以外の立ち入りは制限されていますが、観光客向けに夏限定のボートツアーが催行されます。
- 実施時期:5月~8月
- 運行会社:Better Moments AS / Hurtigruten Svalbard
- 所要時間:約11時間(ロングイェールビーン発の日帰りボートツアー)
5. イスフィヨルド・ラジオ(Isfjord Radio)

もともとは無線通信施設として建てられた場所。
現在はリノベーションされ、ユニークなブティックホテルとして利用されています。
周囲は人里離れた何もない荒野ですが、館内にはWi-Fiやシャワーも完備。
北極圏の大自然と快適な滞在をどちらも楽しめる特別な宿泊体験ができます。
季節ごとに移動手段が異なり、基本的には宿泊付きツアーで訪れます。
- ツアー会社:Basecamp Explorer Spitsbergen
- 夏:スピードボート(片道約1時間)
- 冬:スノーモービルや犬ぞり(約90km)
- 宿泊:2~5日間の宿泊パッケージ
日本との時差は何時間?サマータイムに注意
スヴァールバル諸島と日本の時差は 8時間 で、日本のほうが進んでいます。
たとえば、スヴァールバル諸島で午前10時のとき、日本では午後6時です。
さらに注意したいのが サマータイム(夏時間)。
3月の最終日曜日から10月の最終日曜日まではサマータイムが導入され、この期間は時差が 7時間 になります。
公用語はノルウェー語!旅行者は英語で大丈夫?

スヴァールバル諸島はノルウェー領なので、公用語はノルウェー語です。
ただし、ロシア人やウクライナ人が暮らすバレンツブルクやピラミデンでは、ロシア語やウクライナ語も使われています。
観光の中心となるロングイェールビーンには、世界50か国以上から人々が集まり、住民の約4割は外国人。とても国際的な雰囲気です。
そのため、日常生活や観光では英語が広く使われており、ホテルやツアー案内も英語対応が一般的です。
旅行者は英語でコミュニケーションをとることができれば、困ることはほとんどありません。
気候と日照時間|白夜と極夜を体験しよう

スヴァールバル諸島は、夏でも平均気温が10度に届かない「ツンドラ気候」に属しています。
地中は永久凍土に覆われ、木々が育たない環境です。
とはいえ、同じ緯度にあるロシアやカナダの地域と比べると、冬の寒さは意外にも穏やか。これは西側を流れる北大西洋海流(暖流)の影響で、気温が極端に下がりすぎないためです。
最も冷え込むのは2〜3月ごろですが、マイナス30度を下回ることはほとんどありません。
参考までに、2022年の最低気温は2月24日のマイナス27.6度でした。
ただし注意したいのは「風」。
年間を通して強風の日が多く、体感温度は実際の気温よりずっと低く感じられます。
冬に訪れる場合は、防寒具に加えて風を防ぐアウターが欠かせません。
雪は9月ごろから降り始め、10月〜翌年5月中旬までの約7か月間、町全体が雪に覆われます。
✅ 日照時間の特徴
北緯78度に位置するロングイェールビーンでは、日照時間が極端に変化します。
- 4月下旬~8月下旬:太陽が沈まない“白夜”
- 10月下旬~2月中旬:太陽がまったく昇らない“極夜”
およそ4か月ずつ、「一日中明るい季節」と「一日中暗い季節」が訪れます。
白夜の時期は夜でもハイキングやクルーズを楽しめ、極夜の時期は昼間からオーロラ観測ができるチャンスが増えます。
訪れる季節によってまったく異なる体験ができるのも、スヴァールバルならではの魅力です。
通貨とお金の事情|キャッシュレスで安心
スヴァールバル諸島で使われている通貨は、ノルウェー・クローネ。表記は「kr」または「NOK」です。
支払いは基本的にクレジットカード。
ノルウェー独自のモバイル決済アプリ「Vipps」も広く使われています。
キャッシュレス化が非常に進んでおり、小さなカフェやお土産店でもカード払いが可能です。
注意したいのは現金の扱い。
ロングイェールビーンでは数年前に唯一の銀行が閉店し、それに伴ってATMも撤去されました。
つまり、現地で現金を引き出すことはできません。
そのため、旅行前にクレジットカードを複数枚準備しておくのがおすすめ。
メインのカードが使えない場合や紛失時の備えとして、予備カードを1枚持っておくと安心です。
なお、ホテルやレストランの料金にはサービス料が含まれているため、チップの習慣は基本的にありません。
よほど特別なサービスを受けた場合を除き、追加で渡す必要はないと考えて大丈夫です。
物価はどのくらい?外食と自炊のリアルな価格感
スヴァールバル諸島はノルウェー領ということもあり、物価は基本的に高めです。
特に宿泊費は首都オスロと比べてもやや割高な傾向があり、近年の観光客増加によってさらに上昇しています。
ハイシーズンは宿泊施設の供給が追いつかず、料金も一気に高騰。予約自体も難しくなるので要注意です。
混雑のピークは主に次の2つの時期:
- 3月〜4月(冬のベストシーズン)
- 7月〜8月(夏休みの観光シーズン)
この時期の旅行を計画している方は、宿泊先と航空券をセットで確保するのが鉄則です。
✅ レストランと自炊の物価
スヴァールバル諸島には、消費税(付加価値税/VAT)がありません。
そのため、レストランの食事はノルウェー本土よりは少し安く感じられるかもしれません。
外食メニューの一例(2024年12月時点)
メニュー | 価格 (NOK) | 日本円換算 (1kr=14円) |
---|---|---|
ピザ | 215 | 約3,010円 |
ビーフバーガー | 230 | 約3,220円 |
魚のスープ | 170 | 約2,380円 |
ラーメン | 225 | 約3,150円 |
ビール (330ml) | 72 | 約1,000円 |
コーヒー1杯 | 39 | 約550円 |
毎食レストランを利用すると出費は大きくなるため、キッチン付きの宿で自炊を検討する人も多いかもしれません。
ただし注意したいのが、自炊=必ずしも安いわけではないという点です。
生鮮食品はすべて空輸されているので、野菜や肉、魚は割高。一方で、パスタや缶詰などの保存食は船便で運ばれるため比較的お手頃です。
✅ お酒の価格
もうひとつの注目ポイントは「お酒」。
スヴァールバル諸島は免税エリアのため、ノルウェー本土では高額な酒税が課されるアルコール類もここでは課税されません。
そのため、ビールやワインなどが本土よりかなりお得に購入できます。
詳しい物価比較はこちらの記事でも紹介しています:
▶【スヴァールバル諸島】現地スーパーの物価や品揃えを徹底調査
治安は良好!でも気をつけたいホッキョクグマの存在

スヴァールバル諸島の中心地ロングイェールビーンは、治安がとても良好です。
スリや置き引きといった軽犯罪はほとんどなく、観光客が被害にあうような事件はまずありません。
オーロラ鑑賞などで夜間にひとりで歩いても、基本的には問題ないといえます。
ただし、この静かな町で唯一の“脅威”といえば──ホッキョクグマ。
通常は町から離れた場所で目撃されることが多いですが、まれに町周辺に現れることもあります。
実際に2019年と2023年の年末には、深夜にロングイェールビーンの街中で姿が確認されました。とはいえ、こうした事例は非常にまれです。
町の外に出る場合は特に注意が必要。
スヴァールバルでは「町の外へ出るときはライフル銃を携帯すること」がルールであり、旅行者は必ずガイド付きツアーに参加する必要があります。
治安そのものは非常に良いですが、自然環境には独自のリスクがあります。
都市型の危険を心配する必要はほとんどない反面、野生動物や自然条件に対する備えは必須です。
インターネット・Wi-Fi事情|町の中は快適、外は圏外
極地にいるとは思えないほど、スヴァールバル諸島のインターネット環境はしっかり整っています。
ノルウェー本土と海底ケーブルで接続されているため、回線速度も比較的速く、日常的な利用には十分です。
ロングイェールビーンの町では、すべての宿泊施設でWi-Fiが利用可能。
カフェや空港でも無料Wi-Fiが提供されており、旅行中も安心してネットに接続できます。
ただし注意したいのは町の外。
町を一歩出るとスマートフォンは圏外になり、インターネットも電話も利用できなくなります。
そのため、ツアーガイドや現地の住民は緊急連絡用として衛星電話を携帯しています。
電圧とプラグ|日本の電化製品は使える?
スヴァールバル諸島の電圧は230V / 周波数50Hz。ノルウェー本土と同じ仕様です。
日本の電圧(100V)とは異なるため、日本製の電化製品を使う場合は注意が必要です。
特にドライヤーやヘアアイロンなど消費電力の大きい機器は、そのままでは使用できないことがあります。必要に応じて変圧器を準備しましょう。
プラグの形状は、丸ピン2本の「Cタイプ」が一般的。やや差し込みにくいですが、「SEタイプ」も使用可能です。
万が一変換プラグを忘れてしまったら、ロングイェールビーンのスーパーで購入できます。

飲料水事情|水道水はそのまま飲んでOK
ロングイェールビーン水道水は、そのまま飲むことができます。
主に雪解け水が利用されており、ニオイやクセもほとんどありません。
インフラも整っておるため、ホテルの客室でも安心して水道水を飲めます。
ただし「海外で水道水を飲むのはちょっと不安…」という方や、お腹が弱い方はスーパーで販売されているミネラルウォーターを利用しても◎。
まとめ|安心してスヴァールバル諸島を旅するために
今回は、スヴァールバル諸島へ旅行する前に知っておきたい基本情報をまとめてみました。
「世界最北の町って、どんなところ?」という素朴な疑問から、滞在中に役立つ実用情報まで──事前に押さえておけば、安心して旅の準備ができます。
最後に、旅行前に覚えておきたいポイントをおさらいしておきましょう。
- 観光の拠点は ロングイェールビーン(Longyearbyen)
- 日本との時差は 8時間(サマータイム中は-7時間)
- 公用語は ノルウェー語(観光は英語でOK)
- 4月下旬~8月下旬は白夜、10月下旬~2月中旬は極夜
- 現金は不要!キャッシュレス決済が主流
- ホテルは割高(ハイシーズンは早めの予約を)
- 治安は良好で、一人旅も安心
- Wi-Fi&ネット環境◎
- 電圧は 230V/Cタイプのプラグ
- 水道水はそのまま飲んでOK
スヴァールバル諸島には、ここでしか味わえない時間と風景があります。
自然の厳しさと、町の快適さが同居する不思議な環境は、一度訪れると忘れられない体験になるはずです。
ぜひ実際に足を運んで、北極圏ならではの魅力を体感してみてくださいね。
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