スヴァールバル諸島には、ホッキョクグマやトナカイ、セイウチなど、北極ならではの野生動物が暮らしています。
街の近くやツアー中に、ふとした瞬間に動物と出会えるのも、この場所の大きな魅力のひとつです。
この記事では、現地で暮らす筆者の実体験をもとに、「この動物に会うならここ!」という、比較的遭遇率の高いエリアを動物別に詳しくご紹介します。
これからスヴァールバル諸島を訪れる方が、少しでも出会いのチャンスを広げられるように──
そんな思いでまとめたので、街歩きやツアー選びの参考になれば嬉しいです。
※野生動物との出会いには運も必要です。あくまで「出会いやすい場所」としてご覧ください。
動物別!おすすめ観察スポット
今回は、スヴァールバル諸島で野生動物に出会いやすい場所を、以下の3つのエリアに分けてご紹介します。
- ロングイェールビーン町中
(ホッキョクグマ安全区域内) - ロングイェールビーン郊外
(銃器またはレンタカー必須) - ツアー参加必須エリア
ロングイェールビーンの町中は、ホッキョクグマ対策をしなくても歩ける「安全区域」に指定されています。
町の外に出ると、周囲には「ホッキョクグマ注意」の標識があり、それより先へ行くには、ライフル銃の携帯やレンタカーなど車での移動が必要です。
ちなみに、スヴァールバル諸島の道路は全部合わせても約40kmほど。郊外の端から端まで、車なら30分ほどで走れてしまう距離です。
町中や郊外以外の場所――
氷河やフィヨルド、山地などへは、現地ツアーに参加することでアクセスできます。
【野生動物の一覧】
↓気になる動物からチェック!
トナカイ|町中でも出会える身近な存在

スヴァールバル諸島で一番出会いやすい野生動物といえば、トナカイです。
人をあまり気にせず、町の中でものんびりと草を食べたり、くつろいだりする姿が見られます。
ロングイェールビーン町中
町中のどこでも見かけますが、特に次の2か所は出会いやすいスポットです。
① 教会付近
町の中心部から教会へ向かう道沿い(Vei 300)の草地では、のんびり草を食べるトナカイを見かける頻度が高いです。
② Nybyen周辺
Funken Lodge(フンケンロッジ)からNybyen(ニービュエン)に向かう途中の草地や、山の斜面にもよく現れます。
ロングイェールビーン郊外
町中で見かけなくても、郊外へ出れば高い確率で出会えます。
① Adventdalen
町からAdventdalen(アドヴェントダーレン)に向かう一本道沿い。レンタカーがあると便利ですが、徒歩の場合は「ホッキョクグマ注意」の標識があるところまでが安全エリアです。
② キャンプサイト前の道沿い
郊外のメイン道路をAdventdalen(アドヴェントダーレン)とは反対方向に進むと、空港やキャンプサイトがあります。
そこからBjørndalen(ビョーンダーレン)方面に向かう途中でもよく見かけます。
※道の終点を越えるとライフル銃が必須なので、その先はツアー利用がおすすめです。
トナカイは一年を通して観察しやすく、他の動物よりも近くで見られるのが魅力です。
ゆっくり近づいて、邪魔にならない距離から静かに観察してみましょう。
ホッキョクギツネ|郊外や山での遭遇チャンスあり

真っ白な冬毛や、茶色が混じる夏毛が美しいホッキョクギツネ。
その毛色は風景に溶け込みやすく、目を凝らしていると、ひょっこり現れることがあります。
ロングイェールビーン町中
町の中心部では少ないものの、静かなエリアではときどき見かけることがあります。
特に野鳥が繁殖する6〜7月頃は、町中でもチャンスが高まります。
① 墓地周辺
町はずれの墓地があるVei 300沿い。
ここは地元の人の散歩コースにもなっていて、夏には野鳥の巣が多く、狩りをするホッキョクギツネが見られることも。
② Tommy’s Lodge周辺
ハスキー犬の小屋が並ぶエリアも、野鳥の繁殖地。
卵やヒナを狙うホッキョクギツネがときどき姿を現します。
ロングイェールビーン郊外
郊外では町中よりも出会える確率が高く、ホッキョクギツネ観察をメインにしたツアーもあります。
ただし、極夜の時期は暗くて見つけにくいので、明るい季節がおすすめです。
① キャンプサイト前の道沿い
キャンプサイトからBjørndalen(ビョーンダーレン)方面に向かう途中で見かけることも。
山の麓を注意深く見ていると、トナカイの群れに混じって姿を見せることもあります。
② Gruve 3周辺
空港の裏山にある、かつての炭鉱Gruve 3(グルーヴェ3)周辺。
山の斜面を元気に駆け回るホッキョクギツネの姿が見られるかもしれません。
ホッキョクギツネは警戒心が強く、人の気配を感じるとすぐに逃げてしまうことも。
驚かせないように静かに待っていると、向こうから近づいてくることもありますよ。
ライチョウ|町外れで見られる野鳥

ロングイェールビーンの町は山に囲まれていて、町中にもときどきライチョウが姿を見せます。
山の麓や斜面を注意深く探すと、ちょこちょこと歩く姿や、じっとたたずむ姿を見つけられるかもしれません。
ロングイェールビーン町中
運が良ければ町中の道端でも出会えますが、山の近くの静かなエリアが狙い目です。
① Nybyen周辺
山の斜面沿いに建つNybyen(ニービュエン)の集落周辺。
山のふもとの草地や岩場で見かけることがあります。
② Huset周辺
Nybyen(ニービュエン)の向かい側にあるHuset(フーセ)周辺の山の麓にも、ときどき現れることがあります。
③ Taubanesentralen周辺
旧石炭ケーブルカーセンター(Taubanesentralen)の裏手に広がる斜面では、ライチョウがじっとたたずむ姿が観察されることも。
ロングイェールビーン郊外
町中で見かけなくても、郊外に出ると比較的高い確率で出会えます。
① キャンプサイト前の道沿い
トナカイやホッキョクギツネと同じく、キャンプサイト前からBjørndalen(ビョーンダーレン)方面に向かう途中。
山の麓や斜面に目を凝らすと、数羽のライチョウが歩いている姿が見られることも。
② Gruve 3
かつての炭鉱Gruve 3(グルーヴェ3)へ続く道沿い。
1羽見つけたら、ぜひ周囲もよく見てみてください。数羽から十数羽の群れで行動していることもあります。
スヴァールバルに生息するライチョウは、基本的に穏やかでマイペースな性格。
ある程度近づいても逃げないことが多いですが、距離を保ちつつ、のんびり観察してみてください。
セイウチ|定番の昼寝スポットに注目

同じ場所に戻る習性があるセイウチ。
お気に入りのスポットを知っておくと、出会えるチャンスがぐっと高まります。
町の周辺ではトナカイやホッキョクギツネほど頻繁ではありませんが、海沿いでのんびり昼寝している姿が見られることもあります。
ロングイェールビーン郊外
町周辺で探すなら、海沿いの静かで開けた場所がおすすめです。
① Adventfjorden
ロングイェールビーンの正面に広がるAdventfjorden(アドヴェントフィヨルド)。
特に夏には、Adventpynten(アドヴェント岬)の海岸にやってきて、砂浜でのんびり寝そべっている姿が見られることもあります。
現地ツアー
より確実に観察したい場合は、ボートツアーに参加してフィヨルド奥の定番スポットへ。
① Isfjorden
ロングイェールビーンの町が面する、長さ約107kmの大きなフィヨルド。
水面からひょっこり顔を出したり、海辺で休んでいる姿が見られることも。
② Borebukta
Isfjorden(イスフィヨルド)の奥にあるBorebukta(ボーレブクタ)は、セイウチの定番スポット。
セイウチ・サファリツアーの主な目的地で、ロングイェールビーンからボートで約1時間。
砂浜に群れが寝そべる光景に出会えることもあります。
セイウチはとても大きく、ホッキョクグマと互角に渡り合えるほど力強い動物。
見つけてもむやみに近づかず、静かに観察するのがおすすめです。
ツアーなら安全な距離を保ちつつ、ゆっくりとその迫力を楽しめますよ。
ホッキョクグマ|“遠くに見つける”のが基本

ホッキョクグマを見たいなら、町から離れた海氷のあるエリアへ。
「遠くに白い姿を見つける」のが基本なので、双眼鏡があると便利です(詳細はまとめで紹介しています)。
現地ツアー
町の周辺では基本的に見られないため、現地ツアーへの参加が必須です。
春~初夏にかけて、海氷が残るフィヨルドや東海岸を訪れると、ホッキョクグマに出会える可能性があります。
① Billefjord(Nordenskiöld)
ロシアのゴーストタウン・Pyramiden(ピラミーデン)があるBillefjord(ビッレフィヨルド)。
冬から春にかけては海氷が張り、ホッキョクグマに出会いやすいエリアです。
Nordenskiöld(ノールデンシェル)氷河を背景に、アザラシを狙う姿が見られることも。
② Mohnbukta
スヴァールバル諸島の東海岸にあるMohnbukta(ムーンブクタ)。
厚い海氷が張りやすく、春にはスノーモービルで訪れる人気スポットです。
③ Tempelfjorden
Mohnbukta(ムーンブクタ)ほど確実ではありませんが、年によってはTempelfjorden(テンペルフィヨルド)にも氷が張り、ホッキョクグマが現れることがあります。
こちらも春にスノーモービルでアクセス可能です。
ホッキョクグマは非常に危険な野生動物です。
ツアーでは必ずガイドの指示に従い、安全な距離からその姿を楽しみましょう。
クジラ類|フィヨルド内での遭遇率が高め

夏になると、フィヨルドに餌を求めてやってくるクジラたち。
6月頃から目撃情報が増え、町周辺の海でも見られるようになります。
ロングイェールビーン郊外
町の近くのフィヨルドでも、視界の開けた場所で海面を注意深く見ていると、クジラの姿を見つけられることがあります。
① Adventfjorden
Adventfjorden(アドヴェントフィヨルド)では、初夏から夏にかけてベルーガ(シロイルカ)の群れが現れることも。
キャンプサイト周辺やVestpynten(ヴェストピュンテン)など、海が見渡せるスポットがおすすめです。
現地ツアー
ボートやクルーズのツアーに参加すると、さらに高い確率でクジラに出会えます。
フィヨルドの奥まで足を伸ばし、壮大な景色の中でクジラを探すのも魅力です。
① Isfjorden
ロングイェールビーンの町が面する大きなフィヨルド、Isfjorden(イスフィヨルド)。
このフィヨルド内では、どこでも現れる可能性があります。
夏には景色を楽しみながらクジラなどの野生動物を探すボートツアーがたくさん開催されています。
② Billefjord(Nordenskiöld)
Billefjord(ビッレフィヨルド)周辺は特に遭遇率が高く、氷河を背景にクジラが泳ぐ姿が見られることも。
こちらもクルーズやボートツアーで訪れることが可能です。
海面を広く見渡していると、思いがけず姿を見せてくれるかもしれません。
シャッターチャンスを逃さないように、カメラや双眼鏡を準備しておきましょう。
観察時の注意点とマナー

スヴァールバル諸島に暮らす野生動物たちは、厳しい北極の環境に適応して生きています。
その一方で、とても繊細で、人間の活動が及ぼす影響も少なくありません。
私たちのちょっとした行動が、生態系のバランスを崩したり、動物たちを追い詰めてしまうこともあります。
そのため、スヴァールバルでは特別な環境規制が設けられていて、観光の際にも守るべきルールがあります。
スヴァールバル観光ガイドライン(一部抜粋)
- 野生動物や野鳥の邪魔になるような行為は控えましょう
「自然の中にお邪魔させてもらう」という気持ちを大切に - ホッキョクグマを探したり、追いかけたりすることは法律で禁止されています
- 適切な銃器とその扱いの経験がない人は、集落の外には出ないようにしましょう
自然に負担をかけないように心がけることが、私たち自身にとっても貴重な体験につながります。
ぜひ、マナーを守りながら、安全で心に残る観察を楽しんでくださいね。
ホッキョクグマのサファリツアーはある?
結論から言うと、「ホッキョクグマ・サファリ」という現地ツアーはありません。
先ほどのガイドラインでも触れた通り、ホッキョクグマは絶滅危惧種に指定され、法律によって厳格に保護されています。
そのため、ホッキョクグマを探したり、観察を目的としたツアーが提供されることはありません。
具体的に禁止されている行為としては、以下のようなものがあります。
- ホッキョクグマを探す
- おびき寄せる / 餌を与える
- 追跡する / 妨害する
規則に違反した場合には、厳しい罰則が科されるので注意が必要です。
とはいえ、ホッキョクグマはスヴァールバル諸島に一年を通して生息していて、ツアー中に偶然出会う可能性は十分にあります。
例えば、スノーモービルや船で島の自然を巡るガイド付きツアーに参加すると、運が良ければ遠くにホッキョクグマを見かけることも。
もし遭遇した場合、ガイドは参加者の安全を最優先に行動し、無理に近づくことはありません。
しかし、安全であり、現行の法律や規制に沿っていると判断した場合は、遠くからホッキョクグマを観察できるチャンスもあります。
「積極的に探しに行く」のではなく、あくまで偶然の出会いを楽しむ、そんな気持ちで臨むのがおすすめです。
ホッキョクグマ対策とガイド同行のすすめ
ロングイェールビーンの町から外に出るときは、必ず現地ツアーに参加しましょう。
極地の荒野を旅するというのは、壮大で美しい反面、とても厳しい自然に向き合うことでもあります。
一年を通して気候は過酷で、天候が急変することも珍しくなく、ホッキョクグマが突然現れることも。
こうしたリスクに備えるには、十分な準備が欠かせません。
現地のツアーガイドは、天候や雪崩のリスク、氷の状態、そしてホッキョクグマの動向など、スヴァールバルの自然環境を熟知しています。
さらに、町の外に出る際に必要なホッキョクグマ対策の装備を常に携行し、万が一遭遇した場合も安全を確保できるよう備えています。
ロングイェールビーン周辺では、ホッキョクグマが目撃されると現地の警察がすぐに対応するため、町中や郊外で遭遇するのは非常にまれです。
それでも、年に数回は監視の目をすり抜けて、町の近くまで現れることもあり、油断は禁物。
町の中でホッキョクグマ対策が不要な「安全区域」は、以下のリンク先などで確認しておくと安心です。
まとめ
スヴァールバル諸島では、厳しい自然の中でたくましく生きる野生動物たちに出会えます。
それは、まさに北極圏ならではの体験です。
とはいえ、出会えるかどうかは、動物たちの気まぐれ。
私たちは「自然にお邪魔する」という気持ちを忘れずに、静かに見守ることが大切です。
ぜひ、街歩きの合間やツアーの途中で、双眼鏡やカメラを片手に海や山に目を向けてみてください。
きっと思いがけない出会いが、旅をもっと特別なものにしてくれるはずです。
ちなみに、現地のツアー参加者も多く使っているのが、レンタルの双眼鏡。
「普段使わないし、高いのを買うのも…」という方も、レンタルなら手軽に高性能なものを試せるのでおすすめです。
現地在住の筆者も町の外へ出かける際は、常に双眼鏡を携帯しています。
北極の大自然と野生動物との出会いを、ぜひ楽しんでくださいね!